配偶者居住権
配偶者居住権とは、2018年に改正された民法(相続法)の中でも特に注目度の高いポイントの一つです。
実際に施行されるは、2020年4月であるため、2019年5月現在の相続ではまだ対象となりません。
配偶者居住権とはどのようなものか?
これまでの相続法においては、相続により不動産の所有権を得ることはあっても、配偶者の居住権という概念が特に設定されていなかったため、被相続人の死後、遺産分割により生存配偶者が住む家を失ったり、生活費となる現金が十分に相続できないという問題が生じることがありました。
そこで配偶者の相続不動産への居住を守りつつも、現金を相続し易くするために制定されたものが配偶者居住権となります。
例えば3000万円の自宅と3000万円の預貯金、計6000万円の相続財産があり、相続人は、配偶者Aと子Bであり、配偶者が自宅を相続した場合・・・
旧法だと、配偶者Aは3000万円の自宅を相続するわけですので、財産を平等に配分した場合、預貯金の相続が出来なく、生活に困窮する恐れがあります。
預貯金を相続したい場合、自宅を子Bとの共有で相続するということもできますが、その場合だと配偶者Aが自宅に住み続けるには、子Bの持ち分に対する代価を支払う必要性などが出てきます。
≪旧法の場合≫
~ケース①~
- 配偶者A → 自宅3000万円のみ
- 子B → 預貯金3000万円のみ
※現金が得られないため生活に困窮
~ケース②~
- 配偶者A → 自宅1500万円分 + 預貯金1500万円
- 子B → 自宅1500万円分 + 預貯金1500万円
※自宅に居住するにはBの持ち分に対する代価を支払う必要性も・・・
そこで新法を導入した場合、配偶者Aは自宅の1500万円分の所有権と1500万円の預貯金に加え、自宅の居住権を得られるという相続が可能になるため、自宅が子Bとの共有持分であっても特段の定めがない限り終身的に無償で居住する権利が担保されます。
≪新法の場合≫
- 配偶者A → 自宅1500万円分 + 預貯金1500万円 + 居住権
- 子B → 自宅1500万円分 + 預貯金1500万円
ただし注意すべきは、この配偶者居住権は、生存配偶者に当然に認められる権利ではないという点です。
配偶者居住権を取得できる要件としては・・・
①相続財産である建物に生存配偶者が相続開始時、既に居住していること。
②当該建物が相続開始時に配偶者以外の者との共有となっていないこと。
③遺産分割で配偶者居住権を取得する場合。
④遺贈や死因贈与によって配偶者居住権を取得できる場合。
問題となるのは、③と④です・・・。
せっかく新たに制定された配偶者居住権ですが、結局のところ分割協議や遺言等により権利を取得できなければ、配偶者が必ず得られる権利ではないということです。
つまり被相続人が遺言を遺していない場合や生前に死因贈与契約を交わしていない場合は、他の相続人との分割協議が整わない限り配偶者居住権は認められないという点には注意が必要です。どうしても分割協議が整わなければ、家庭裁判所での調停、それでも整わなければ審判によります。
よって自分の死後、配偶者の居住権を確実に保障したい場合は、遺言を遺しておくことが確かな手段であることは間違いありません。